夏山 山岳診療所ってなに?

日本では北アルプス、南アルプスなどの夏山登山客で賑わう山岳地帯を中心に、夏の間だけ特別に開設される夏山(山岳)診療所というものがあります。

特に奥深い山岳地帯で知られる北アルプスでは、山々の尾根を伝って何日もかけて縦走する日本の登山のメッカです。そんな縦走登山の途中で健康上のトラブルが発生した場合、どうなってしまうのでしょう? そんな山での不測の事態に備えて作られたのが山岳診療所です。そのほとんどは、主要な登山ルートの中継地点となる山小屋の中に併設されています。

夏山診療所の設置母体は大学医学部がほとんどです。大学医学部が山小屋の主人と協定を結び、山小屋の一部を間借りして診療所を開いているというパターンが圧倒的に多いようです。

診療所と言っても町中にあるような医院を想像してはいけません。道路も通じていない人里離れた山奥にある診療所なので、当然設備は限られています。水道がなければ電気もないような環境なのですから。

ふつう病院やクリニックに掛った場合は、健康保険証を持っていって保健診療を受けますが、夏山診療所のほとんどはそういった健康保険が使える診療所とは異なります。どちらかというと、救護所の延長と思った方がいいかも知れません。マラソン大会などのときに作られる仮設救護所を思い浮かべるといいかも知れません。医師や看護師が常駐はしているもののあくまでも応急処置を行なうための場所。そんな感じです。

設置母体こそは大学医学部ですが、その実際の運用はボランティアで賄われている場合がほとんどです。医療材料や薬品類は製薬会社からの寄付だったりOBからの募金で賄われていますし、診療所の駐留する医療スタッフも「仕事」で派遣されているわけではなく、自分の休みを使って診療活動に参加している完全なボランティアです。

医大の山岳部OBなど、山を愛する医師や看護師が自主的に集まって成り立っている診療所なんです。

山小屋診療所業務の実際

さて、実際の業務内容ですが、基本的にはなんでもありの外来業務です。足をくじいた、転んで切った、虫に刺されたなどなど。場所的に標高2500mを越えるため、軽度の高山病症状を訴える人も少なからずいます。

設備面でいえばすでに書いたように正式な「診療所」というよりは、救護所の延長に近い感じが一般的。それでも酸素ボンベ、滅菌鋼製器械、点滴や注射薬を含めた一般的な薬剤はありますので、医師が駐留していれば薬の処方や縫合等の簡単な外科処置などはできます。でも医師不在の場合(あくまでボランティアに頼っているので医師不在の期間というのも多少なりとも存在します)は、一般的な応急手当て以上のことは一切できないただの救護所扱いになります。

実際のところ日程によっては医師の確保が難しく、学生ボランティアの他は看護師しかいないという場合もあり得ます。その場合は、電話や無線連絡で外部の医師の指示を仰ぎつつ、点滴等の処置は可能になります。その場のスタッフで手に負えない場合は、歩いて2時間ほどの場所にある双六小屋の富山医薬科大学の診療所から医師の応援を頼む、もしくはヘリコプターを呼ぶといった形で対応しているようです。

こうした山小屋の診療所に行って思うのは、日頃自分は病院という守られた環境の中にいるからこそ仕事できているんだなぁという点です。必要なものはなんでも揃っているし、自分の手に負えないと思えば人を呼んで助けてもらえるシステムも存在している。

勉強の必要性を痛切に感じますね。日頃の仕事とは違った視点で医療を考えることもできて、アウトドア派な医療者にはぜひ経験をお薦めしたいアクティビティです。

患者さんの来院が多いのは、みんなが小屋に到着する夕方以降と出発前の早朝に集中しています。日中は比較的ヒマなので、景色のいい小屋周辺を散策したり、日溜まりで昼寝をしたり。休暇の過ごし方としても悪くないです。

これを読んで興味が湧いた方、来年の夏は山岳診療所でのボランティア診療に参加してみませんか?