沖縄西表島から持ち帰った数少ないもののひとつに台湾製の竹箸がある。台湾製といっては正確ではないかもしれない。台湾産の素材をつかって西表島で作られた箸といったらよいだろうか。
などともったいぶったところで、実はなんてことはない。ただ西表島の浜に流れついた流木を削って箸を自作したというだけの話だ。
テントを張っていた南風見田の浜は延々数キロつづく天然の海岸だった。沖合数百メートルのところに、切れ目なくある環礁のおかげで驚くほど波が穏やかだ。ところが台風のときはそれが一変する。そのときには海からさまざまなものが打ち上げられる。台風の威力というのはすさまじいもので、時には大岩さえも運んでくる。
それら漂着物は浜の奥に打ち上げられると、次の台風まではそのまま在りつづける。 そんなわけで浜では実にさまざまなものを拾うことができる。そんな漂着物のひとつである竹を削って箸をつくったわけだ。
しかしその竹がなぜ台湾から来たとわかるのか? 答えは単純。中国語のラベルのついたビンとならんで落ちていたから。それ以上の根拠はない。でもとにかくそれは台湾産の竹なのだ。だれがなんと言おうと。
島のキャンプで実用品として使っていた箸だが、長さといい持ちやすさといい、なかなかうまくできたので、そのまま持って帰ってきた。いまでも家で菜箸として使っている。
今でも、その箸を手にするたびに西表島での食事の場面が思い出される。
それと自分で勝手に思っているだけだが、その箸が外国から数百キロの旅をしてきたものだと思うと、ただの竹なのになにか特別なもののような気がしてくる。そして国境の島というエキゾチックな気分にも浸れるのだ。
やはり旅の記念にするなら、その旅での思いが詰まっているものが一番である。自分の気持ちを投影できるもの そうであってこそ、それをお土産(=旅の記念)と呼べる。
ちなみにぼくは旅先で土産物というものを買ったことがない。